St. Valentine's Day1


St. Valentine's Day 【side:M】


「はい!」

黒髪の少女は小さな包みを突き出す。
可愛くラッピングされたそれを、灰色の少年は困惑したように見つめた。
「…はい、って?これ、え、俺に?」
今日は少女にとって大切な日。
彼女だけじゃない。世の中の女の子にとってとてもとても特別な日。
バレンタインデー。
つまりこの包みは、そういうこと。
その経緯は1週間前に遡る。

チョコレート会社の策略か、この時期には手作りのキットや可愛くラッピングされた高級チョコレートが店頭を飾る。
それを楽しそうに眺めながら、女子3人は買い物をしていた。
「もうすぐバレンタインねぇ」
橙色の髪を揺らしながら呟く紅月麻緋。
「楽しみにしててくださいね!美卯、姉さまのためにとっておきのチョコレート作りますから!」
黒崎美卯が頬を赤らめて笑った。
「私も、普段お世話になっていますから、皆様にチョコレートを作ろうかと思っていますわ」
森倉華耶は優雅に微笑みながらお菓子作りの本を手に取る。
三者三様に、このイベントを楽しんでいるようだった。

そして前日の夜。
三人はこっそりとチョコレート作りに励んでいた。
こういうのはサプライズが大切だと力説する美卯の意見により、夜中集まってのチョコレート作り。
「美卯は、本命チョコ誰にあげるのかしら?」
自分は作るつもりがないらしい麻緋が美卯の手元を覗き込む。
「もっ、もちろん姉さまですよ!えへへっ」
美卯はチョコレートを刻む手を手を止めて、恥ずかしそうに笑った。
それにしても、彼女が用意しているチョコレートは2人分。
しどろもどろに言い訳をする彼女にクスリと笑って、麻緋は少し離れる。
「いじわるしちゃったかしら。気にしないで続けて」
「別にっ…いじわるなんかじゃありませんけど…」
羞恥で真っ赤になりながら、美卯は作業を再開した。
どうやら作っているのはガトーショコラとトリュフ。
どちらも並行しながら慌ただしく作る姿は微笑ましい。

華耶はどうやらクッキーを作るつもりらしい。
星やハートの形にくり抜きながら、慣れた手つきで作業を進めている。
「初めてなので、上手くいくかわからないのですが」
「大丈夫!華耶ちゃんのクッキー、楽しみだなぁ」
二人の楽しそうな話し声がキッチンに響いた。
麻緋は冷蔵庫からチューハイを取り出すと、それを飲みながら少し考える。
自分も何か用意した方がいいだろうか。
しかしまともに料理などしたことがないし…。
全員分を作るのは面倒臭い。第一華耶が用意するのなら必要ないだろう。
それでも、やっぱりひとつくらいは…。

「美卯」
「はぁい、何ですか?姉さまっ」
大体作業も終了したらしい二人に近付き、微かに頬を染めながら言う。
「材料、余ってたりする?私も…何か作ろうかしら」
それを聞いて美卯はぱぁっと嬉しそうに笑った。
私が教えてあげますね、と余った材料を持って来る。
オーブンからは美味しそうな香りが漂っているが、チョコレートを作る会はもう少し続きそうだ。


そして当日。
みんなに配られた華耶のクッキーは大好評。
雪が淹れたココアと一緒にパーティが開かれた。
楽しかったパーティも終わり、片付けの最中。
美卯はこっそりと善慈を呼び出したのだ。
「あんた以外に誰が居るのよ。いいから黙って受け取りなさいっ」
恥ずかしさが最高潮に達したらしい。美卯は半ば押しつけるように相手に包みを渡すと、逃げ出そうと背中を向けた。
「あ、ちょっ、美卯!」
善慈は慌てて呼び止める。
そして駆け寄ると、美卯の手に可愛らしくラッピングされた箱を握らせた。
「…え、なに、これ?」
「やるっ」
今度は善慈が真っ赤になり、美卯は何が何やら分からないというように首を傾げる。
分かっていない様子の美卯に、善慈は頭をガシガシと掻きながら言った。
「なんか、逆チョコってのがあるんだってよ!で、なんつーか…たまたま買っちゃったし、やる相手もいねーから…仕方なく!仕方なくだぞ!」
思いっきり顔を背けながらぶっきらぼうに言う。
それを聞いた美卯はこれ以上ない程に頬を紅潮させた。
「しっ…仕方なくって何よ!私だって、たまたま作りすぎただけで、あんたにあげようとか思ったわけじゃないんだからね!!」
勿体ないから貰ってやるけど!と叫ぶと、美卯は善慈から渡された箱を持って走り出す。
みんなの居る事務所には戻れず、そのまま外へと飛び出した。
カップルが寄り添い歩く道を一人で進みながら、気分が落ち着くのを待つ。
「…馬鹿善慈」
小さく呟いてから、足を止める。
本当は、あんなことが言いたかったわけじゃないのに。
「……卯、美卯!…おい馬鹿美卯!」
「だ、誰が馬鹿よ!」
聞こえた罵声に反射的に振り返ると、そこにはコートを持った善慈の姿が。
「…風邪引くっつーの。馬鹿」
「…ぜん、じ」
事務所に置きっぱなしだった自分のコートを肩に掛けられ、その温もりにどう反応していいか分からないでいると突然抱き締められた。
耳元で小さな声がする。
「チョコ、さんきゅ」
きっと相手も真っ赤なんだろう。
それなら、自分の顔が熱いのを隠す必要もない。
「私も、…ありがと」



今日はSt. Valentine's Day。
恋人たちが愛を誓い合う日。


≪戻 ・・・【side:A】≫


-----------

*後書きというか言い訳というか*

これはフィクションです!
善慈×美卯は決して公式ではありません(デジャヴ)
しかも遅い…今更バレンタイン…
べっべつに、リクエストがあったから書いたってわけじゃないんだからね!
なんか少女漫画っぽくて、書きながら鳥肌立ちました。
なにこいつら。甘すぎる…!
麻緋さんのチョコレートのお相手を考えたらにやにやが止まりません。
楽しかったです。


09/02/21 にわとり
- mono space -