a winter day

冬の日


「うあああ寒ッ!」
叫びながら浅葱善慈は部屋に飛び込んできた。
鼻の頭を真っ赤にして、頭にはうっすら雪が積もっている。
マフラーと手袋が唯一の防寒具だった。
先日出したばかりのコタツに足を突っ込んでミカンを食べていた紅月麻緋、黒崎美卯、森倉華耶の3人は驚いたように目を見開いた。
そして2人はため息、1人は心配そうな表情を見せる。
「雪、部屋に入れないでよね」
「そうよっ姉さまが風邪を引いたらあんたのせいだからっ!」
「大丈夫ですか?早く暖まってください」
麻緋と美卯は嫌そうに顔を顰めたが、華耶だけはコタツへと手招きした。
善慈は2人を無視し、冷えた体を暖めようとコタツへ入る。
「うわっ冷たい!ちょっと善慈、足当てないでよ!」
ひんやりとしたものを感じた美卯はコタツの中で盛大に善慈の足を蹴り飛ばす。
「いてっばか蹴るな!寒い中走ってきたんだからしょうがねぇだろ!」
「そもそもなんでそんなに薄着なのよ?傘は?雪降ってるでしょ」
こちらにやってきた善慈の冷たい足を追いやりながら麻緋は尋ねた。
「いや、ちょっと…」
もごもごと口ごもる。
「どうかされたんですか?」
皮を剥いたミカンを善慈の前に差し出して、華耶が首を傾げた。
有り難くミカンを口に放り込むとそれを飲み込み、善慈は誤魔化すように笑ってみせる。
「なんでもねーって!まさか降ると思わなかっただけ」
それを聞いた美卯はさらに首を傾げた。
「雪なら結構前から降ってたけど?」

「で、仕事は片付いたんですか?善慈くん」
嫌味を込めた調子の言葉が、扉付近から聞こえてきた。
女3人はそちらを見て何事かを心得たように立ち上がる。
善慈はビクンと身体を震わせた。
「この3日間どこへ逃げていたんですかねぇ。あなたがどこで何をしようと勝手ですが、その間仕事が無くなるわけではないんですよ?」
クラスト=狩野が見せたとても貴重な笑顔は、善慈の恐怖を倍増させただけだった。
とばっちりを食わないようにこっそりと部屋から出る3人。
「紅月さん」
そのうち呼び止められたのは1人。麻緋は一瞬行動を停止させて、恐る恐るクラストの顔を窺い見た。
「な、…なに?」
今までクラストの後ろに控えていた笹貫雪が笑顔で書類の束を手渡した。
「こちら、締め切りが近いので早めにお願いしますって、言いましたよね?」
穏やかな笑いが一層怖い。
麻緋は観念したようにそれを受け取った。
「…分かった。やるわよ。やればいいんでしょ」
「そうです。やればいいんですよ」
素直に受け取った様子に満足したのかクラストはそれ以上は言わず、再び善慈へと視線を向ける。
「で?浅葱くんはこの3日間のツケをどうやって払ってくれるんでしょうねぇ?」
「え、いや、それはその…ほら!クラストだって見逃してくれるって言ったし!」
「仕事に支障がでなければ、という条件付きだったと思いますが?」
「…これからッ!次からちゃんとするから!」
「あなたは子供ですか。次は次はで通ると思わないで下さい」
「………」
明らかに自分に分が悪い。
申し訳なさそうに下を向く様子にクラストはため息を吐く。
「…今回だけですよ」
その言葉が耳に届くと、善慈はがばっと顔を上げた。
そして信じられないというような表情でクラストを見る。
「そちらの事情も了解しているつもりです。ですが、次からはもっと上手くやりなさい」
善慈は何度も、首が取れるのではないかという程強く頷き、クラストの手を取った。
「ありがとう…さすがクラスト!お前は俺の親友だ!!」
「あなたの親友になった覚えはない。離して下さい」
冷やかな視線が降ってきて慌てて手を離す。
それでも3日分の仕事が無くなったわけではない。
デスクの上に溜まりっぱなしになっている書類の山を見てため息が出そうになるが、ここでそんなことをしたら今度こそ夜の仕事は見逃してもらえないかもしれない。
とりあえずお咎めがなかったことに上機嫌で、3日ぶりに自分の席に着く。
文字を目で追った瞬間襲いかかって来る睡魔との格闘が始まった。

「あなたはいつも、肝心なところで甘いですね」
雪は苦笑するように笑った。
「甘やかしているつもりはない。やることはしっかりやってもらう」
「その姿勢、素晴らしいと思いますよ」
温かいお茶でもいかがですか、と急須を手に取る。
外はまだ雪が降り続いている。
朝になれば積もるかもしれない。
そうすればまた雪合戦だ雪だるまだと大騒ぎになるのだから、今のうちにやるべきことは片付けておかなければ。

静かな夜が更ける。


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08.12.8にわとり
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