violetandlightblue-2


azure・blush・purple・white(仮)


 黒髪、黒衣の青年は灰皿に煙草の灰を落としながら煙を吐いた。煙草の煙を一瞥して嫌な顔をした女性は、彼の姉である。
 先程から両者とも口を開かないが、特に仲が悪いわけでも、喧嘩をしたわけでもない。話す話題が無い事も無いのだが、その話題も出し辛い。その為、妙に居心地は悪かった。
 しかし、だからといって離れるわけにもいかなかった。 青年――クラストは姉、サラの横に移動し、名前も声も素性も何もかも知らない、しかもこの状況を意図的でないにせよ作り出した少年の顔を覗き込んだ。長い睫毛は瞼と共に伏せられており、ほぼ規則的且つ静かに息をしているという状況は此処に運び込まれた2時間前と何ら変わりは無い。
 部屋はとにかくこざっぱりしていた。真っ白い壁にぽっかり空いたような窓があり、その丁度反対側にルノワールの複製画が掛けられている。少年が寝込んでいるベッド以外の調度品は無い。普通の状況ならばこの部屋には寂しさや虚無感を感じるかもしれない。
 またクラストが壁にもたれかかり煙草を吸い始めると、サラはちょっと、と云って煙を上げる煙草をクラストの手から取り上げた。
「この子が肺炎持ちだったらどうするのよ。悪化させるつもり?」
「…俺も肺炎持ちだけど」
「べっつにアンタの事なんか聞いちゃないわよ。けど、病人の前で吸うことは非常識でしょうが」
 確かに、この横たわる少年は極度に衰弱していて意識を失いはした。しかし、それだけで病人というのはおかしい。何の病気にもかかっていない可能性だって有る。が、『病気になり易くなっているかもしれない』『例えそうじゃなくても未成年が吸うな』等と反論されるのは目に見えていたので、クラストは何も反論しなかった。
何もしないでいるうちに、煙草の火は消されてしまっていた。
 ぼーっと窓越しに外を眺める。2時間前のことが嘘のように思えた。
 ――組長は何を考えているんだか…
 いきなり電話をかけてきたかと思えば、急に人を捜して欲しいと頼んできた。何でですかと問えば、数秒間口ごもり、とにかく捜してくれ、状況は後で説明するからと言ってその人――少年であったが、それの特徴を説明され、一方的に切られた。焦っている様子であったし、父の馴染みで子供の頃から随分世話になった組長からの頼みである。変な詮索は止めて、探した。数十分でそれは発見された。そして、
 その少年は笑った。
 外は白で埋め尽くされ、長時間外に居たら大の大人でさえ堪らない気温であった。ましてや少年であるから、すっかり凍えて何の反応も示さないはずだと思い込んでいた。が、彼は笑った。寒さを全く感じさせない、花畑にでも居るような無垢な表情だった。 自分を嘲笑していたのかとも思ったが笑われるような覚えはないし、第一彼とは、面識もない。
 何が楽しくて、もしくは嬉しくて笑ったのだろう。
「ねえ」
「…何だよ」
 適当な返事を返す。頭の中は相変わらず何故、何で、どうして、という意味のない問答が続いていた。
「組長は、この子の事、どうするつもりなんだろ」
「…さあ…」
「………」
「………」
「ねえ」
「……ンだよさっきからうっせえな」
「眼」
「め?」

「眼、開けた」



 少年は、瞬きをせずじっと天井を見つめていた。




 その瞳は、壁に掛けられたルノワールの少女に似ていた。




≪戻 次≫



-----------

後書:言い訳

何ヶ月かかってるんですか…
と、自己ツッコミしたくなるほど遅くなりました、申し訳ない。
絵がルノワールなのは、単に私が好きだからという理由。

次までに文章能力を鍛えたいと思います。



そういえばタイトルが『(仮)』のままですね…


06.8/10 ゆーじ



- mono space -